京の都ってのは、夏は暑いし冬場は極寒。人が生活を営み住まうには、あんまりいい条件の土地とは思えない。先の帝は何だってまた、こんな気候の土地へと都を置いたかな。確か昔は、九国(九州)の筑紫に、結構デカい政権があったと聞くが、そのまま南で何で栄えなんだのだろうかの。
「確か、風水で占った結果ではなかったかの?」
そんなもん、俺が知るか…で撥ね除けても良いよな話題だってのに。一応は受け止め、丁寧に噛み砕き、そこから思案した末の“見解”というものをいちいち差し出すところが、相変わらず律義な性分をしている蜥蜴の総帥様であり、
「ほれ、大地の気脈“龍の気”の流れといい、山川に絶妙に囲まれている配置といい、政治の中枢を置き、しかも安泰に治めるのに打ってつけだとかいう卦が出たとかで。」
「…それは、大和の朝廷が近畿へと落ち着いてからの話ではなかったかの?」
お館様が例えに出したのは、それよりもっと昔の話で。何をトンチンカンなことを言っておるかな。寿命が長い者は記憶の整理もさぞや大変なのだろうよな、などと。いかにも含みのあるお言いようをなさったが、
「この日の本の国という細長い領地全体を、出来るだけ隈無く掌握しようと思ったら、やはり端っこにいては不都合が多かったからではないのかの。」
それに、筑紫は西ではあるが言うほど“南”ではないからの、ここいらと変わらない気候だぞ? 暖かい土地といや、隼人か高千穂の方だろよと、やはり馬鹿正直なくらいに堅実・実直で。葉柱様のお言いようも、決して間違ってはいないご意見だと思うのだが。それより何より、向かい合って話している相手が大切な人だから、だからこそ真面目にあたっているまでな彼でもあるにね。そもそも、お館様が言いたかったのは、
――― 何でまたこんな寒いんだ、京都ってのは、とか、
とうとうこうまで冷え込む時節へ突入かよ、とか。
そういうご不満へ、彼なりの巧みを狙って仄めかしてみた、言わば“緩衝”の遠回し。筑紫も遷都も一種の枕詞のような引き合いに出されただけなのに。流してくれて良かったそんな部分へ、いちいちの細やかなお返事があったりしたもんだから、
「……………っ。(怒っ#)」
あ〜あ、やっぱりお怒りになられた模様でございます。まだ妻戸や蔀しとみやが閉じられたままな広間なので、その中のご様子は残念ながら透かしてさえ見えはしないのですけれど。ドカッという鈍い音がしたのは…恐らくは。お館様が蜥蜴の総帥様を、力任せに思い切り、寝間から蹴り出したその音ではなかろうかと………。(合掌)
◇
周囲を山々に囲まれし“盆地”の底に据えられた格好の、京の都はなかなか厳しい気候ではあるけれど、そのめりはりの潔さから磨かれるのか、四季折々の景色の素晴らしさはすこぶる圧巻。花霞に都中がけぶる春の桜に、したたるように鮮烈な夏の新緑。凛として艶やかな秋の錦に…冴えてつれなき冬場の雪景。それなりの華やかさや、はたまた粋で深みのある佇まいをもってして、歌人や文人たちの感性を豊かに育み、優れたる作品を数々と、後世へと残させもしたのだが。
「そんなもん、ちーっともありがたくねぇっっ!」
暦の上でも真冬へ突入中という、いかにもな寒の厳しさがいよいよ押し迫って来たものだから。我儘なお館様、綿入れのお布団から出ていた耳の先やらがあまりに冷たくなっていたのへと、やはり早速にも不平不満が出たらしく。やれやれと大きな肩をすくめた黒の侍従殿。まずはと、手足の先のかじかみには火桶を出させ、衿元へは舶来の羊毛の織物をふわりと巻かせて、これでかなりの防寒効果を齎してから。底冷えへの対処には敷物を厚くして熱の発散を食い止めて…と、先人たちが振り絞った知恵を掻き集めた、その上へ…ちょこっと狡いが“奥の手”も動員しちゃれと思ったらしく。火鉢に炭を燃やす時は換気も必要で、風を嫌って戸や窓を立て込めていると“炭毒(一酸化炭素中毒)”にあたって、悪くすれば死んでしまう危険さえあるので。
「だからって、お前の一門の郎党を山ほど連れて来たとても。温石おんじゃくの代わりにはならんと思うが。」
それがために冬眠しちゃう、変温動物ですもんねぇ。(苦笑)
「言われんでも判っとるわっ。」
どんなに寒くてもその回転は落ちないらしい、盟主殿の口の悪さへ、やっぱり律義に言い返しつつ。一緒に目覚めてその“温石”になってくれてた恩も何のその、堂々の“八つ当たり”から理不尽にも思い切り蹴飛ばしたような相手のために、蜥蜴の総帥、何やら手段を講じているらしく。
――― 吽っ。
短い印を結んで一声、気合いを込めて一括すれば。
「………お。」
一応の基礎はしっかりしていたとはいえど、年期の入ったあばら家であるがゆえ、気密性が少々怪しくて隙間風が気になっていたはずが、床を伝わって秘やかに、すべり込んで来ていた仄かな冷気がぴたりとなくなったから、
「何をした?」
これは一応助かったかなと、肩から力を抜いた金髪痩躯のお館様だったが、そこへと応じたのが、
「なに、俺の体温を上げただけだ。」
けろりと言ってのけた葉柱だったから。
「ちょっと待て。」
身を乗り出しかかって、あっと実感。確かに、結構間近に向かい合ってる相手から、暖かい気配がやって来る。炎があるでなし、陽が射すでなしな方向からの見えない熱。
「炎を灯すの何のとなると、ずっとそこへと意識を向けておらねばならんが、これならそれも要らぬしな。」
そりゃああっけらかんと言い“ははは…”と笑って見せまでした彼ではあるが、それって…かなり超自然な現象なのではなかろうか。確かに“咒”でも何でも使えとばかりに急っつきはしたが、だからといってあまりに大層なことをされると、その反作用だって凄まじいのは当然の図式。
「大したことはないさね。」
怪訝そうに眉を寄せたお館様へ、やはり余裕のお顔をしたまま、
「普通の平熱の倍くらいまでは何とか上げられっからよ。」
どこか自慢げに付け足した葉柱だったが…それって。
「おいおい、ちょっと待たんか。」
いくら“変温動物”だとはいえ、生身の生き物が“あまりに高温”というものにまで体機能を付き合わせられるものだろか。………いや、生身の生き物という範疇も、彼へは少々微妙なところなんですが。
「やったことはあんのか?」
「いんや?」
初めてだと、しゃあしゃあと答えた総帥殿へ、
「………っ。(怒っ#)」
きっちり元に戻っとけという意味合いの、なかなか見事な一蹴りが、も一度繰り出されたそうですが。(苦笑)
「ありゃりゃあ…。」
またまた過激な“じゃれ合い”をなさっておいでの、お館様とその侍従様らしいなと察して、書生の少年、小さな瀬那くん。これは今日のお勉強は午後からってことになりそうだと、広間へと続くお廊下の手前、欄干のある渡殿、渡り廊下の前にて引き返す。こういう呼吸にも随分と慣れて来て、しかもこの頃では、
「…進さん。」
誰の姿もない回り廊下。だってのに、ぽそりと名前を呼ばわれば、
「………。」
それは静かに、だが、唐突にはならぬよう、セナの前へ忽然とその姿と存在を現す人がある。この時代、彼ほどの年頃の青年であれば、伸ばした髪をきつく束ねての結髪をしているもの。そういった見栄えが、一人前な大人であるとされたる儀式を終えた証しでもあるのだが。彼もまた、どこか奔放な陰陽術師の系統ならではな闊達さに習っているのか、セナやお館様同様に、短いめの黒髪をざんばらにして構わず。貴族かその側近・隋身のような、かっちりとした襲かさねの装束を着付けているので、雑仕や舎人ではなく、セナに専属の守護のような存在であろうと皆からは思われておいでの、
「進さんvv」
というお名前の、実は憑神様であったりする。セナの立っていたお廊下よりも、一段低い庭の側に、跪ひざまづくようにして現れた彼だったので。その傍へ寄ろうとすぐ側の短い階きざはしを駆け降りかかれば、
「待たれよ。」
強くはない語調にて、それでも一旦セナを制してから。階の一番下、沓ぬぎのための平らかな石の上へ、少し変わった形の沓を揃えて下さって。
「? これは?」
足をすっぽりと入れる形のもので、日本のものではないのだろう、足首までもを覆うほど首の長いそれだったが、そこへ座れと手振りで示された階の1つ降りたところ。示されるまま腰掛けたセナの小さな足を取って、憑神はその沓を履かせてくれて。当初は何かと手をかけて下さるの、畏れ多いと遠慮しまくっていたセナだったのだが、大ぶりの手は武骨に見えつつ…なかなか器用に働くため、物によってはセナよりずんと手早く丁寧だったりし。(苦笑) そこでと、今ではすっかり任せていたりし、今も大人しく見ていれば、
「…あ。」
その沓、どうやら格段に柔らかな革で作られているらしく。口のところなぞ見るからに細い外観だのに、そこから足をスルリとすべり込ませることが出来、しかも中にはふわふかな感触。羊の毛並みから搓ったという、薄いが温かな布が張ってあるのだそうで、
「温か〜いvv」
しかも隙間がなくって動きやすい。両方を履かせてもらってすぐ、階の一番下まで駆け降りると、たかたかと踊るような軽やかな足取りにて、それは嬉しそうにはしゃいで歩き回って見せれば…あのね? がっつり頑健な武神であるがための硬い表情が、判る人が限られるほどもの僅かな変化、仄かに仄かに和らいだ進さんであり。はしゃいだまんまですぐ傍らまで駆け戻れば、そのまま後ろへ引っ繰り返りそうなほどもの身長差をものともしないで見上げて来る小さな主人へと、もう1つの贈り物。ふわりと左右に広げた腕の狭間へと、これも羊毛の薄物、軽いのにそれは温かな“しょーる”というもの、出して下さり。小さな盟主の小さな肩へと、ふんわり掛けて下さったのでありました。
◇
これでも高名な術師の一門、小早川家の…かなりがところ末席の、一般の民草と差のないほど小さな小さな家の嫡子として生まれた少年。親の親のそのまた親くらいの代からもう、陰陽五行のあれこれからも離れての郊外暮らし。咒陣の描き方よりも、春に畑へと蒔く種の案配をこそ大切に伝えて来たよな、そんな家庭であったのに。大層強い能力・素養を持つ子だということで、本家の宗家へ召し出され、全然勝手の判らない咒というものを一から叩き込まれることとなり。知る人もいない中、なかなか上達しない手際の悪さを、妬み半分、からかわれたり苛められたりしたらしかったが。そんな立場だった彼へと…だからこそのそれなのか、とある“不思議”が舞い降りた。
――― あの子の傍に寄ると、何処からともなく石が降る。
思う通りに咒が使える子ではない。だから、彼自身が起こしている不思議ではないのは明白で。だがだが、どういう訳だか…彼を苛めた者には、容赦のない天誅が様々に下るようになった。屋敷の中に雨が降る、何処からともなく飛礫が襲い、ムカデや蟲らが屋敷を覆う。ただでは済まない災禍が降るとあって、しまいには大人たちまでが寄れない子になってしまい、厄介者扱いの果てに当家へ“行儀見習い”という形で流されて来た子供。そんなくらいならいっそ実家へ返せば良いのに、
『それは不味いさ。かなりの素養というやつがホントにあるのだからな。』
いつしか大人に育ってから、自分の不遇を宗家への恨みに替えられたりしては困る。かといって、闇に葬る訳にも行かない。何しろ邪意を向ければ凄まじい攻撃が返る子だ、そこでと白羽の矢が立ったのが…こちらさんも唐紙破りもいいとこな、天衣無縫の規格外術師の蛭魔だったということならしく。帝からのお声掛かりがあっての高見博士からの頼み、まま、たまには1つくらい聞いてやっても良かろうと。引き受けたお館様が、そのまま…誰もが手をこまねいていた“不思議”の正体をも暴いてしまったのが、この“お伽語り(?)”の最初の方でご紹介した拙話だったりするのだが。
「そろそろ年の瀬ですねぇvv」
珍しいものが結構揃ったこの屋敷にも滅多にはなかろう舶来の、それは温かな装備をまとわせてもらい、すっかりご機嫌の小さな術師見習いくん。頼もしき憑神である進さんのお顔をにこにこと見やりながら、屈託なくお話を始めている。一応は“お行儀見習い”という立場の彼でありながら、短気かと思や意地っ張りから我慢強い時もあり、乱暴だけれどそればかりでもなく、深い思惑を巡らせ、小さなセナへと気遣って下さることもあるという、ほんに気性のややこしいお館様の、身の回りのお世話の方も受け持ってはいるのだが。小さい子供じゃあるまいしと、ずぼらなくせして人が手をかけるのを嫌う性分もなさっておいでで。それとは別口、ご本人は認めたがらないことなれど、それはそれは大切になさっておいでの、あの侍従さんとお過ごしのひとときの邪魔もまた、不快の表情をお見せになられるお師様なので、そこいらへの遠慮という呼吸はそろそろ飲み込めて来たセナくん。今日は午前一杯は暇だろうと見切っての、のんびりお休みモードに入ったらしい。
「ボクはもっともっと年の瀬に近いころに生まれたんだそうですよ?」
誕生日という観念は、明治大正、そんなほどまで先の時代、西洋から入って来た概念で、それまでの日本人は、お正月に全員が一度に年を取った。今で言う“数え年”ってやつですね。暦が少々複雑だったので、毎年毎年同じ日にちが同んなじ“何月何日”ではなかったせいもあったんでしょが。そこで、桃の節句、端午の節句に生まれたんだとか、暑い盛りに、年の瀬間近に、お前は生まれたのだよと親から教えられる、そんな把握が限度。進さんはその頃からボクを見てらしたのかしらと、楽しそうに笑ってから、
「此処のように豊かな家ではなかったので、新年の支度に忙しいってことはなかったらしいのですが。逆に、新年のお祝いへのお餅一つも用意のないよな家だったので、食い扶持が増えたのはかなりの負担だったはずなのに。」
陽あたりのいい濡れ縁に腰掛け、温かな沓に包まれた足を、ちょこっとお行儀悪くもぶらぶらと揺すりながら。恥ずかしそうに肩をすくめてから、
「でも、ボクの両親は、それは嬉しいことだったんだよって、いつも笑って話してくれました。」
小さな家族が増えて、お乳から離れればおもゆにおかゆに、ご飯を食べるようにもなろう。着るものだって要るし、何より、何かとまだまだ覚束ない内は、目が離せない分、お仕事の手もお留守になりがちになるからね、作業の効率も落ちかねずで本当に大変になったのだろうにね。無邪気に笑う幼子の、それはそれは愛くるしいお顔や仕草には、どんな苦労も慰められた。この子が喜んでくれるのならば、もっと美味しいものが食べられるように、もっと暖かいおべべが着られるように、もっともっと頑張ろうという気持ちになれたから。
「年の瀬が近づくと、それだけで。何だか嬉しくなるんだよって。」
お父さんもお母さんも、そりゃあ にこにこと話して下さいましたと、本人もにこにこ、満面の笑みで語ってくれたのへ。セナより少しほど低い段差にやはり腰掛けて、そこまでは黙って聞いていた憑神様。ふっとお声を沈ませて、
「そんな主あるじを、俺は傷つけてしまった。」
それは凛々しい、男臭い面差しの中。強靭な意志をとどめた深色の眸が、されど…心なしか沈んだような。何しろ、彼こそが…セナを困らせた“不思議”の正体だったのだからして。そんな温かだったお家から引き離されただけでも、それは心細かったセナだったろうに。彼を守りたい一心でとはいえ、彼の立場にまでは思考が及ばぬまま、敵対者を片っ端から叩き伏せていた自分であり。それがますますのこと彼を追い詰め、泣かせるほどにも困らせていた。ただの使命感からのことだったのか、蛭魔が言うには、半分くらいは…自分の存在に気づいてほしかったからという自己主張もあったらしいとの話だったし。そんなことで、大切な主人を困らせていたとはと、当時を振り返るたび、苦々しい想いで厚みのあるお胸が一杯になる彼であったりするらしいのだが、
「仕方がありませんよう。」
セナは、けろんと笑って見せる。いつだって心優しく、人を恨んだりなぞしない、屈託がないセナ。もう済んだことなんだからと、だから気にするなということだろうか。柔らかなお声へ顔を上げた憑神様へ、
「だって、進さんはそれほどまでに凄い人なんですもの。」
ふやんと、やわらかな笑顔が陽だまりに目映く花開く。ふくふくの頬に、小さくて愛らしい口許に、それは優しい笑みをのせ、ちょっぴり細められた目許には、頬の縁へと触れそうな睫毛の奥に、琥珀の潤みが透かし見え。弱虫なボクだから、全然辛くなかった訳じゃないですけれど…と前置いてから、
「進さんほどの人と仲良くなるのに、必要なことだったんだなって。」
だってお館様と肩を並べて戦えてしまうほど、それはそれはお強い方ですのに。ボクみたいな小さな子供が、そう簡単にお近づきになんて、なれなくて当たり前じゃあないですかと、屈託なく笑いかけ、あっと何かに気づいてから、
「あ、進さんは“人”じゃあなくて武道の神様でしたよね、すみません。」
口許を覆って“あやや…”と恐縮するかわいらしい人。冬に生まれた、なのに ささやかな陽だまりみたいに暖かい少年。慎ましいながらも安寧な暮らしをしていたものが、大人たちの都合で右も左も判らぬところへ連れて来られ、その上、得体の知れない現象にまでさんざん悩ませられたのに。そんなものさえ何するものぞと、こうやって柔らかく笑っていられる、懐ろの深い、優しい子。
「………。」
ああやはり、自分はこの人の御霊みたまへ従う身となれて良かったと、しみじみ思った武神様。やわらかな“しょおる”の感触にはしゃぐ盟主様が、両手で掻き合わせたその裾へふかふかな頬をうずめる愛らしい仕草へと
「………。////////」
ついつい、言葉もないほどに見とれてしまったそうですよ。(苦笑)
――― これから厳しくならん、冬の寒さをも和らげて、
生まれて来てくれた、小さなお陽様みたいな君へのありがとう。
HAPPY BIRTHDAY! TO SENA!
おまけ 
やっぱり気が短いお館様。とうとう、広間に囲炉裏を切るぞと言い出され、
「…そんなことをしても良いものでしょうか。」
一応は貴族の作法洋式にのっとった作りの屋敷であり、ここは本来、お客様との対座に用いる広間なのにと、怪訝そうな顔をしたのがセナならば、
「夏になったら今度は邪魔だと言い出さぬか? お前。」
煙出しのための空気抜きの小窓も空けねばならんのだし、唐紙を張ったり剥がしたりってなことと同じな訳にはいかぬぞと、そういう方向で懸念を寄せたのが葉柱さんだったのだが、夏場は火を掻き出して蓋をすりゃあいいとのお言葉。どうあっても暖を取る方を優先するぞとのことだったので、
「…一度言い出したら聞かぬ奴だしの。」
しょうことなしの突貫作業。一体どういう伝手なのやらで呼び出されしは、実は名のある宮大工の、若いのに名人として誉れも高いお方だったらしくって。………そんな人に囲炉裏を掘らせて作らせた、お館様って…。ちなみに、古い時代の囲炉裏は“炭櫃すびつ”と呼ぶそうで。後世のようにそこで煮炊きまでしたのかは…すみません不明ですが、とりあえず、無かった訳ではないらしいです。
「大体だな。真っ赤に沸いて触れられぬ、鉄瓶のようになってどうする、お前。」
「??? それって?」
あ〜あ、そこでピンと来ないから、お館様がお怒りになるのにね。そんな簡単な言葉の綾さえ、解げせないほどもの野暮ったさは、嫌うどころか…むしろ好きな種の武骨さで。ただね? わざわざ咬み砕いたら露になるだろう、それは素直でちょっぴり甘い想いの丈、
――― そうまでかんかんに熱したならば、
お前にくっついて暖まることが出来なくなるだろうが。
そっちの方が余程に心地もいいものを…とか何とかいうことを思ってしまったお館様だったこと。それを真正直に伝えるような、そんなお言いようなんて出来ないからこその仄めかしなのにと思えばの、
「こんの野暮天トカゲが〜っ!///////////」 (←あっ)
こういう雄叫びになっちゃうのにねと、首をすくめてお気の毒にと同情しちゃったセナくんだったそうである。
〜Fine〜 05.12.07.〜12.08.
*当時の暦で言うと、師走はもう少し後になり、
太陽暦の“12月21日”じゃあなくなるのですが、
その辺りの不整合、お茶目なパラレルですんでと、どうかご容赦を…。
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